新たな新幹線は、新たな三セク鉄道を生む
東北本線は上野(正式な起点は東京)―青森間だ、という昔の鉄道知識が役に立たなくなっている。
「東北新幹線」は、東京―新青森間を結ぶ高速鉄道だが、在来線の東北本線は、盛岡が終点であり、その先は、岩手県内が「IGRいわて銀河鉄道」、青森県内が「青い森鉄道」という第三セクターの鉄道である。
これは1990年に政府・与党間で、「建設着工する区間の並行在来線は、開業時にJRの経営から分離することを認可前に確認すること」という合意がされたことによる。
新幹線が開業すれば、並行する在来線の経営収支が悪化することは目に見えている。そこで、旧・国鉄の二の舞をJRに演じさせないため、並行する在来線をJRの経営から切り離すことになったのだ。
この方策は、JRにとってはありがたいことだが、経営を肩代わりする県や自治体にとっては、大きな負担となり、地元住民にとっても、運賃値上げという直接負担が加わる。
IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道は、貨物列車を走らせているJR貨物から、国の主導で増額された線路使用料を受け取っている。
しかし、JR東日本が盛岡-青森間を通り抜けていた寝台特急「北斗星」や「カシオペア」を2015年までに廃止したため、三セク2社の貴重な収入となっていた運賃と線路使用料が臨時列車を除いて入らなくなってしまった。
こうした面はあるものの、新幹線は地域産業の発展や観光客の増加などのプラス効果が大きいため、これまで、どこの県や自治体でも、「在来線分離」の条件を受け入れて建設運動をすすめてきた。その結果、2015年の北陸新幹線金沢開業では、長野県、新潟県、富山県、石川県を走る在来線234kmが、県ごとに4社の第三セクター鉄道に移管された。
さて、東北地方には山形新幹線と秋田新幹線も走っているが、この2路線には在来線の第三セクター化は起きていない。いわゆる「ミニ新幹線」方式を採用したからだ。
「ミニ新幹線」方式は、新幹線整備計画から外れた地域に、在来線も走行できるタイプの新幹線車両を走らせるもので、建設費が通常の新幹線よりも安い。在来線のカーブを一部改良し、レールの幅を広げることが工事の中心となるからだ。地元の通勤通学輸送も同じ線路を走る普通列車によって確保される。山形新幹線は1992年に山形まで、1999に新庄まで開業、秋田新幹線は1997年に開業している。
「ミニ新幹線」方式では、最高速度が在来線並みに制限されるので所要時間が通常の新幹線よりもかかるし、単線区間では交換待ちの停車もある。また、線路幅の違いで貨物列車が入れないので、貨物輸送の多い日本海縦貫線などには、この方式は向かないだろう。
現在、山形、秋田県内を中心に、奥羽・羽越新幹線の建設促進を求める動きがある。運動を進める際には、東北新幹線のような「フル規格」、山形、秋田新幹線のような「ミニ新幹線」、そして在来線の改良・高速化のそれぞれの必要度、建設費、地元にとってのメリットとデメリットなど、総合的に議論していただきたいと思う。
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