ローカル鉄道の奮闘
「ローカル鉄道」という言葉からは、「田舎」、「本数が少ない」、「景色がいい」、「赤字」、「のんびり」など、多くの人がそのイメージを描くことができるだろう。
この「ローカル鉄道」も、経営形態から見ると、大きく三つに分類される。
まず、JRのローカル線。これは地図記号でも他の鉄道と区別されていることが多いので、わかりやすい。
次に、民営鉄道。一般に「私鉄」と呼ばれている、JR以外の民間会社が以前から経営してきた鉄道で、首都圏にはたくさんある。しかし東北では、自動車交通の発達などで、戦後の高度成長期から小さな民営鉄道路線の廃止がすすみ、現在は青森県の津軽鉄道と弘南鉄道、福島県の福島交通の三社だけになっている。
2012年に廃止された青森県の十和田観光電鉄も民営鉄道だった。
そして、第三セクターの鉄道会社が経営する鉄道。「三セク鉄道」と略されることもある。
第三セクター鉄道は、さらに二種類に大別される。まず、新幹線開業によって並行在来線を引き受けた鉄道会社で、東北ではIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道がある。そしてもう一種類は、国鉄からJRに移行するときに切り離された、「国鉄転換型」だ。岩手県の三陸鉄道、秋田県の秋田内陸縦貫鉄道と由利高原鉄道、山形県の山形鉄道、福島・宮城両県を走る阿武隈急行、福島県の会津鉄道である。(三セク転換後に開業した部分を持つ鉄道もある。)
さて、国鉄転換型の三セク鉄道の経営収支は、どこも赤字である。しかし、国鉄時代よりも大幅に改善している。それでも「赤字」という言葉をマスコミは先に使ってしまう。前にも書いたが、道路の「赤字」はほとんど語られないのに、である。しかも、ニュースで紹介されるときに、「厳しい経営が続く〇〇鉄道」、「利用客の減少が続く△△線」などと、お決まりの枕詞で語られる場合も多い。
しかし、「ローカル線はみんな同じ状況なのだろう」と思ってはいけない。利用客が回復しているローカル鉄道が全国に何社もあるのだ。
2016年に刊行された『ローカル鉄道という希望』(田中輝美・河出書房新社)で紹介されているのだが、国土交通省の鉄道統計年報によると、ここ10年間の利用者数が上昇傾向なのは、茨城県のひたちなか海浜鉄道、福井県のえちぜん鉄道、兵庫県の北条鉄道など。これに、横ばい傾向の路線も含めると、約半数の路線が、利用者を増やすか維持している。
このデータを見ると、「ローカル線はどこも厳しい」という「常識」を改める必要があるのではないか。そして、利用者が回復している鉄道は、地域ごとの条件の違いはあるものの、鉄道会社の意識転換や、工夫された取り組みがある。そうした先進事例を他の鉄道会社やその沿線自治体にも広く紹介して行くことによって、ローカル鉄道の全体的な底上げが可能になるだろう。
ローカル鉄道を存続させるためには、通勤通学客の確保、地域との結びつき、観光客の誘致などの様々な取り組みが必要だ。そして今、多くの鉄道会社が、それぞれの地域的条件の中で奮闘していることは、もっと知られてもいいと思う。
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